夜、Kと俺は宿の外で晩飯を食うことにした。

歩いて10分。到着したレストランはなかなかの雰囲気で、

汚くもないし混んでいるわけでもない。

やっと一段落できた感じだった。

確か俺はマトンカレーを食べた。羊肉のカレーだ。

二人は調子に乗って、スプーンもフォークも

ちゃんとあるのに、手で食べた。まあまあの味だった。

ウェイターが話し掛けてきた。

「どこからきたんですか?」

ここまでのインドの旅で、早くも

人間不信に陥りかけていた俺たちは

目を見合わせてからこう答えた。

「韓国です」

「あ〜韓国!じゃあ後で、このレストランの推薦状書いてもらえませんか?韓国語で。」

「え?あぁ・・。」

言うんじゃなかった。

「店に貼りたいんですけど?」

しょうがない。

「すいません。日本人です。」

「え?日本人?あ〜そうですか。」

ふ〜んっていう顔をして、

ウェイターは去っていった。

その直後、彼がこちらをちらちら見ながら

どこかに電話を掛けているように見えたのは

俺の思い違いだろうか。

数分後

「やあ!今晩は!日本から来たんだって??」

いや、っていうかあんた誰??

突然謎の男が現れた。いきなり俺たちのテーブルに座って

馴れ馴れしく話し掛けてくる。

背は低いがかなりガタイはいい。

年は30ぐらいだろうか。声はガラガラのしゃがれ声。

毛むくじゃらの腕と、ひげだらけの顔のせいで、

肌の色以上に黒いイメージだ。

「あの、あなたは・・・?ここのオーナーさんとか?」

「あ〜俺かい?そうそう、オーナー。このレストランのね。」

よくわからないままに、話は進んだ。

「なに?やられたの?デリーで?そりゃお気の毒に。
で、いくら取られたの?400ドル!?ひどいな〜。」

15分ぐらい話していただろうか。

俺とKももう分かっていた。

いや、最初から感づいてはいた。

やばい、と。

早めに切り上げて帰らないと、なんかやられる。

お互いアイコンタクトしながら、警戒していた。

しかし、次の瞬間、警戒は焦りへと変わった。

男がもう一人入ってきたのだ。

今度のは背の高い、すらっとした体型。

ワイシャツにネクタイを締めた、ビジネスマン風。

そこまではいい。そこまでは。

ただ問題は

この男が日本語をしゃべったということ。

それもけっこう流暢に。

インドを旅する日本人にとって、これだけは常識である。

「日本語をしゃべるインド人は信用するな。」

そりゃそうだ。

だって彼らが日本語を話す理由はただ一つ。

日本人相手に商売するため。

しかもたいていは悪徳商売。

要するに騙すためだ。

いきなり訳の分からない、いかついおっさんに

声を掛けられて戸惑っていたら、

今度は日本語をしゃべるインド人である。

頭の中で大音量の警告ベルが鳴った。

危険レベル3。一刻も早く脱出せよ。

俺とKは目を見合わせた。


行くか。

よし。

二人は、会話の流れなどほとんど無視して立ち上がった。

「じゃ、僕らもう帰るんで。」

「いやいやいや、もうちょっと話そうよ。」

「いや、ほんと、もうホテル帰んなきゃいけない時間だし。」

「いやしかしあれだね、〜〜〜・・・」

お勘定を払う俺たちの横で、

まだ話しを続けようとしている。

しつこい。

「じゃあ、また。」

やっとのことで振り払い、外に出た。

思わずため息が出る。

切り抜けた。

だんだん危険を退けるのがうまくなってきている自分が

ちょっと気持ちいい。

これで今夜は何事もなく眠れる。

と思ったその時だった。

「お〜い、送ってくよ!」

ガラガラにしゃがれた声が、背後に響いた。

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