「あ、そうだ、ちょっとお願いがあるんだが」
しわがれ声のいかついおっさんは、結局ついてきた。
ホテルの名前を言ったら方向が一緒だと言うのだ。
「実は日本人の友達から手紙をもらったんだが、読めないんだ。翻訳してくれないか?」
はいウソ
ばればれ。それはなめすぎだろ。いくらなんでも。
もうどうでもよくなってきた。
「よくねえ?もう。」
「行っちゃう?」
「行っちゃおうぜ。何事も経験だよ。」
あえて相手のわなにはまることにした。
男の家は本当に宿の近くだった。
家というより店だったが。。
この男、宝石商だったのだ。
さっき言っていた手紙を見せてもらうと、
名刺程の大きさのカードに
月ごとの誕生石が書いてある。
インドに誕生石の風習とかあるのかな?
とか思いながら、拙い英語で説明をする。
「これはね、カクカクシカジカでね、バースデーがさ、〜〜〜・・・」
「ああ!なんだ、これのこと!?」
と言って男が出してきたのは、
まったく同じカードの英語版だった。
知ってたくせに、と
内心キレ気味。
すると今度はこの男、
日本人女性と一緒に写った写真を出してきた。
これがその友達か、と思ったら、
「妻だ。」
うそつけ!
有り得ないだろ。
聞くところによると、
「妻」は今日本にいるから会えないのだそうだ。
はいはい。
と、ここで、男が宝石のパンフレットを取り出した。
このパンフレットではこの値段だけど
うちでは同じものをこんなに安く売っている
と言って、実際に宝石を見せてくれた。
俺にそれが本物かどうか判断する能力はなかったが、
一つだけ確信を持って言えることがあった。
要りません。
おまえが要らなくても家族にどうだ?
いや、お金ないし。
それを聞いたおっさんが熱弁を始めた。
疑っているのか?
人を信じることは大切だ。
俺は神を信じている。
そしてあなたを信じている。
儲けようとしているんじゃない。
人のためになりたい。
だから自分が最低限必要な金以外は
みんな貧しい人にあげるんだ。
助け合いだ。
富める者は貧しい者に施さなければならない。
それが俺の信念だ。
はいはい。
その時のおっさんがいくら弁を振るったところで
全部戯言にしか聞こえなかった。
だって要は宝石を売りたいだけなのだから。
なあ、K?
「このいい人なのかもね」
え?
「助けたいんだね」
えーーー!?
信じちゃってる!!??
Kはふつーに心打たれたらしい。
で、ふつーに熱く語り始めた。
半分上の空の俺の横で、
おっさんとKが熱いトークを繰り広げる。
「でもヒンドゥー教っていうのは〜〜〜」
「だから人を信じるということが・・・」
(早く帰りてえなー)
「貧しい人々が〜〜〜〜」
「バクシーシを・・・・」
(眠いしなぁ)
・ここに彼らの会話を詳しく載せることができないのは
非常に残念であるが、
おっさんのもとを去るときに(結局無事に帰れた)
Kが言った一言から
皆さんには全てを想像していただきたい。
「言葉がうまく伝わらなくても分かり合えるんだね。」
・・・。
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