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※お食事中の方はご遠慮ください※



何事もなく終わりを告げるはずだった平凡な日に

突然発令された緊急事態宣言。

俺は急いで、しかし慎重に階段を降りていった。

一段一段が綱渡りである。

なんとか命をつなぎとめ

たどり着いたその個室。

俺は、薄暗く湿った部屋の

その木製のドアを開けた。

目に飛び込んできたのは

日本の和式に良く似た便器と

その脇の小さなバケツと水道の蛇口。

そこまではいい。そこまでは。

しかし、このトイレには、

我々日本人にとってなくてはならないものが一つ

欠けていた。

そう。

トイレットペーパー。


ご存知の通り、インドでは「事後」トイレットペーパーを使う風習はない。 最近では、観光客向けのホテルやレストランならば完備されていることは多いし、 その辺の雑貨屋で売っていることもある。とはいえ、一般的には、やはり「事後処理」が基本である。以下に簡単だがその手順を説明する。

1.小バケツに水を汲む。
2.右手で後ろからバケツの水をかける。
3.左手で拭き取る
4.2〜3を数回繰り返す
5.バケツ内の余った水で左手を洗う

補足すると、2と3はほぼ同時進行することが望ましい。また、2で水を勢いよくかけすぎると 足やズボンにかかってしまう恐れがあるだけでなく、一度便器に着水した水が、汚物を伴って跳 ね返ってくる危険性もあるので、注意が必要である。



残念なことにこのとき俺は、

インド滞在二週間ほどを経過していたにも関わらず、

まだ左手の洗礼を受けていなかった。

日本から持ってきたトイレットペーパーを

使い続けていたからだ。



俺は困った。

こんな緊急事態に紙の準備などない。

しかし宿まで戻っていたのでは

その間に臨界点を越えてしまう。

危険レベルはもうすぐ5に達しようとしていた。

やむをえない・・・!

俺は決意した。



本来、「左手の洗礼」には

それなりの心の準備が必要である。

また、ことに及ぶ前には

体調を整え

多くのイメージトレーニングを重ね

万全の体制で望むことが望ましい。

しかし今回の場合

心の準備はできてないし、

体調も悪い。

イメトレも何もあったもんじゃない。



この悪条件のもとで

俺は決意したのである。

5分後

意外にも戦いは短いものだった。

しかし、個室から出てきたときの俺の左手は

「洗礼後の穢れ」 (なんと逆説的な言葉だろう)を、

オーラのような空気(臭気?)を

確かにまとっているようだった。

戦いの最中、

ドアの外にもし誰かいたならば

こんな声が聞こえたかもしれない。

それは、どんな悪条件にも立ち向かう、男の叫び。

ある種の試練を乗り越えた、解放の声。

想えば俺は、この結果を望みながら

踏み切れずにいたのだ。

かくて男はインドに近づいた。

あ冷てっ!

・・・

うぉっ

あやべっ・・・!うわっ!

ふぅ〜。

番外編終わり



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