だます    ボラれる    吹っ掛けられる

インドでは

この手の出来事は日常茶飯事である。

町を歩いても

声を掛けられる数が違う。

なんとか中に連れ込もうとする

シルクショップの客引き。

「リクシャー?」

と叫ぶインド版タクシーのおっさん。

「両替、両替、レートいいよ。」

と呼び止めてくる闇銀行のおっさん。

「ハシシ、ジキジキ」

とは大麻と売春のことである。

場所によっては

10分も歩かないうちに

これら全てに遭遇できる。

その他にも

屋外マッサージ屋

ガンガー(ガンジス川)のボート

宝石屋

ヨガの修行

日本食レストラン

などなど

観光客ねらいのビジネスは多い。

バラナシにいた時、

何事も経験だと思って

一度マッサージを頼んだことがある。

インド人には珍しく

割と気の弱そうなおじさんで、

客の扱いもなかなか良かった。

マッサージの腕はいまいちだな

などと思いつつ大人しく横になっていると、

どこからともなくもう一人おじさんがやってきて、

何をするかと思ったら、

二人でマッサージをやり始めた。

一人は下半身、一人は上半身

という具合に

分担している。

こ、これは・・

気持ち悪い

現状を客観的に思い描いてみてから
俺は思った。

何が悲しくて俺は
川辺のベンチで
こんなキャラの濃いおっさん二人
マッサージされなければならないのだ。

そして何より

心なしか

おっさんの手、ぬめってる。

この苦行に耐えること40分余り。

見ると、そこには、

足の指から頭の先までマッサージし終わって

自分の仕事に満足しながらも

何かをほしがるまなざしのおじさんが二人

「みんな俺のマッサージには満足して
いっぱい払ってくれるんだ。
この間のオーストラリア人は気前良かったよな。」

もちろん

最初から値段は決まっていない。

交渉によって決めるのだ。

ここではそれがルール。

こっちは満足度を払う金の量で示せる。

俺はポケットから小銭を出して言った。

「60ルピー」

「それじゃ安すぎるだろ。
二人がかりでやったんだぞ。」

あれも戦略の内だったのだ。

二人でやればあとで多く金を取る口実になる。

「いやいやいや、これしか払わないよ。」

「じゃあ100!」

「だめ、60!」

「二人で60はないでしょう」

結局向こうが折れた。

60ルピーといったら

二人でレストランで軽く食べられる程度だが

しかしそれでも多いぐらいだ。

後で

別の人が別のおじさんに

マッサージしてもらっているのを見つけて

終わってから訊いてみた。

たぶん韓国人だったと思う。

「いくら払いました?」

「10ルピーだよ。」

60であれだけ交渉してた俺って・・。



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