tabiato9 in kyu-syu
+-- 手紙、他 --+

長府から徒歩による強硬帰宅(たぶん15kmぐらい歩いた)を果たした日の晩、この日の夕飯は すき焼きだった。祖父母と伯父さんと俺の4人でコタツを囲み、なべをつつく。ここでも意外と会話 ははずんだ。その日見てきた寺院のこと、祖父に薦められて乗った高速艇の感想、門司港レトロを 素通りしてやったこと、これからの旅の予定。祖母は昔の写真を見せてくれた。

ひとしきりおしゃべりをした後、ごちそうさま。風呂に入って洗面台で歯を磨いていた。 すると後ろから伯父が声を掛けてきた。

「電話は禁止。住所は書いてあるからアポなしで行け。」

寡黙な伯父がそう言って俺に手渡したのは、封筒に入った一通の手紙だった。住所は、 鹿児島県屋久町。なんでも、屋久島に学生時代の同級生が住んでいるそうで、その人にこれを 届けてくれと。

特に用事があったわけでもないだろう。仮にあったんだとしても、電話するか手紙をポストに 入れれば済む話だ。それをわざわざ俺に持たせてくれた。なんて粋なことするんだろうこの人は。 そう思った。もちろん手紙の中身は知らない。届け先の人がどんな人なのかも分からない。初めて 行く土地で、手がかりは住所だけ。でもそれがいい。この人は俺の旅を理解してくれてる。そんな ふうに思った。

次の日の朝、出発の前、俺は祖父母からもそれぞれ一つずつあるものを 受け取った。それは、語り継ぐということと、大切にするということだった。この二つは、旅とは 違ったところで、とてもとても大きなものとして残っていくものだ。大げさかもしれないけど、 俺の生き方にまで影響するものだ。たぶん、俺が一生付き合っていかなければならないことだ。 切実さ、託す、安心、期待、不安、家族、義務、責任、好き、嫌い。なんかまあそういうこと。

そんな感じで、福岡出発。長崎へ向かう。
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