TRAVEL SKETCH in VIETNAM

No.8 青年レバンフイ(4)

後悔は、たぶんしていない。しかたなかった。ただそのせいで、つまり俺が信じてやれなかったせいで、彼はもどかしかったり悲しんだりむかついたりしていたかもしれない。そう思うと、申し訳ない気はする。


目を覚ますと、荷物はそこにあった。昨夜と同じ場所。中身は・・・確かめなくてもわかる。昨日のうちに、荷物の向きから、ファスナーの位置、しわの入り方まで、目に焼き付けておいたからだ。動かしたり中身をいじっていたら、すぐにわかる。

レバンフイはただのいい人だった。

顔を洗って、バックパックを背負って外に出た。フエ行きのバスが来るまで、つまり彼と別れるまで、朝飯を食うぐらいの時間が残されていた。彼のあとについて市場の大衆食堂に向かう。

彼は親切だった。でも俺は彼を信じてやれなかった。感謝と申し訳なさがぐるぐると回って、泣きそうになった。伝えたいことは沢山あるような気がした。でも言葉にはならなかった。ただ黙りこくって、辛口のフォーを食べた。ものすごく不機嫌に見えたかもしれない。彼のほうも、なぜか口数が少なかった。


大通りの道端に座り込んでから15分ほどすると、バスが来た。手を挙げて止める。レバンフイが運転手に二言三言話し掛けた。たぶん、俺がフエまで行くということを伝えてくれたのだろう。運転手に料金を渡して乗り込んだ。

終始無口な別れ際になってしまった。型どおりの別れの言葉を交わして、手を振った。彼は無表情だった。昨晩までの俺の疑念を敏感に感じ取って、怒っていたのかもしれないし、悲しんでいたのかもしれない。

今は信じている。そう言いたかった。

バスはゆっくりと走り出す。開け放ったドアの枠から、彼の姿が消える。

我ながらクサイことをしたと思う。

「ありがとう レバンフイ」

ステップから身を乗り出して、30mほど後方に遠ざかった彼に向かって、叫んでいた。片手を挙げて応えた彼の、その表情までは、見えなかった。