「ネパール人かい?」
「いや日本人だよ。」
「へ〜。その格好してなければばれ
ないよ。インド人みたいだ。」
俺達は二人とも色が黒い。
“ITDC”を出た俺達は、
懲りずに観光局を目指していた。
今度はちょっと目的地を変えて、
インド政府観光局に行くことにした。
「名前は?」
「たかとっていうんだ。」
「俺はK。」
「タカトとKね。俺はチャンプー。よろしく。」
今度道を聞いた相手は、
ネパール出身の青年チャンプー。
親切にも観光局まで
連れていってくれるという。
地下街を抜け、
でっかい日時計の横を通って、
少し細めの道に入った。
「ここだよここ。」
確かに
“〜Governmental〜Tourism〜”
とかなんとか書いてある。
やっと安住の地へたどり着いた思いだ。
「ほんとありがとう。助かったよ。」
「いやいや、どういたしまして。」
「日本語では“Thank you”のことを“ARIGATO”って言うんだ。
“ありがとう”って。覚えておいてよ。」
「アリガトウか。うん、じゃあまた。」
一期一会という言葉は嫌いじゃない。
旅は出逢いだっていつも思う。
出逢いのない旅なんかしたことがない。
しかしこの後俺は、
旅とはそんなクサイ奇麗事だけで
済まされるものではないということを、
身を持って体験することになる。
「こんにちは、どちらからお出でで?」
中に入ると、対応してくれたのは、
中年で体格の良い、
口髭を生やした男だった。
男はチャイで俺達をもてなしてくれたばかりか、
ターリーまでごちそうしてくれた。
実はこの口髭の男とは、
旅行の最後に再会することになるのだが、
まあそれについては後で記そう。
さて、1時間後。
!?・・・この観光局
偽物じゃん
またかよ。
みたいな。
しかも今回は、
400ドル払っちゃった
やられました。
やってしまいました。
まんまとはめられました。
はいそうです。
ツアー組まされちゃいました。
400ドル。一人でだよ?一人400ドル。
今になって思えば、
なぜ断れなかったのか不思議だ。
確かに相手も巧妙だった。
過去に来た外国人観光客との契約書や写真を出して、
ほらこんなに前例があるよ、
みたいな。
日本語で書かれた感謝状まで出てきて、
ほらこんなに満足していただけますよ、
みたいな。
そもそも
“ツアー”という単語を一度も出さないところが巧い。
警戒心を抱かせない。
「自分の力で旅行したい」
というこちらの要求に対しても、
「後半は電車の予約だけしてあげるから、あとは自由に動ける」
と言って巧く答える。
極めつけはあの“Government”の文字。
あの一言があるが故に、
俺達はてっきりここを
インド政府が運営する観光局だと
思い込んでしまったのだが、
何のことはない、
彼らは政府とは全く関係ないのだ。
ただ承認を得ているだけ。
要するにここは
ただの旅行会社だったのだ。
そんなこととはつゆ知らず
「400ドルだって。どうなの?」
「いいんじゃない?」
っておい。
ツアーのプランはというと
デリー→ジャイプール→ジョドプール→ウダイプル→プシュカル
→アーグラ→バラナシ→ブッダガヤ→コルカタ→デリー
一週間(アークラまで)は専用車と宿付き。
宿はすべて三つ星ホテル。
その後17日間は電車の予約のみ。
確かに、
これで400ドルはそれほど法外な値段ではない。
旅の途中では
同じ手口で900ドル払ったとか、
1000ドル払ったとかいう話も聞いた。
それらに比べればまだまし。
それに
あながちこの手のツアーを全否定することはできない。
金があって時間がない人にとっては、
とりあえず観光名所は回ってくれるし、
他のさらにたちの悪い連中に捕まる危険性も減る。
とはいえ、
しがない学生二人組にとっては、
これは痛い出費だ。
普通に行けば
半分以下のコストで足りただろう。
何より
自由が削られたことに凹んだ。
目の前の可能性が
一瞬にしてばたばたと閉ざされていく。
悔しくて
絶対もう一回来ると決心した。
それと同時に
この状況を最大限に楽しもうと
思おうとした。
この先どうなるんだろう。