Study6 in Philippine
+-- 海と魚と人間とT --+

こぉけこっこー

っておい。漫画じゃないんだから。

明け方まだ暗い頃、俺はニワトリのけたたましい泣き声で目を覚ました。ってこんなシチュエーション、アニメ以外で初めて見た。まさか自分が体験することになろうとは。

今日はいっしょに漁に出させてもらうことになっていた。そのための早起きだ。そう、漁に出る。漁に。なんてことだ。こんなことって。こんなに、

こんなに面白そうなことって。

だって“漁に出る”って言ったら、ねえ、あれだよ?よくテレビで見る。晴れた明け方の海。はねる魚。網引っ張ってさ。想像してみ?しかも@マニラ湾だよ?そりゃ胸躍るよ。

そんな好奇心を眠さと戦わせながら、船の乗り場まで歩く。

あ・・。ん?

船ちっちゃ

長さは6、7m。幅は2mもない程度だろか。一人乗り手漕ぎボートをちょっと長細くたぐらいだ。これで大海原へ?
ところが、出発してみてびっくり。このボート、意外と速い。動力にエンジンを積んでいて、本気を出すとかなりのスピードだ。

まだ眠気の残る顔に朝の空気がぶつかる。次第にピンク色に染まっていく水平線に向かってボートはスピードを上げる。15分ほど走っただろうか、それまで船首の向きを調節していたおじさんがエンジンを弱めた。着いたらしい。

おじさんがボートをまるくカーブさせながら網を投げていく。目印のブイを何個か落とした。一回りすると、直径50mぐらいの円ができていた。すると今度は、その円の中心に入った。何をするのかと見ていると、トイレが詰まった時に使う、棒の先に黒くてでかいおわん型の吸盤みたいのが付いている、効果音をつけるなら“スッポン”って感じのあれ、ありますよね?あれを2倍したようなのが出てきて、それで海面を叩きだした。

ドボォン・・ドボォン・・・

そうしながら円を描いてだんだん外側の網に近づいていく。

あ〜わかった。

網は魚を閉じ込めるためのもの。このドボォンは網の円の中に閉じ込めた魚を外側に追い込んで網に引っ掛けるための道具なんだ。

やがてボートは円の一番外側、つまり網のすぐ内側を一周して止まった。いよいよ網を引き上げる作業だ。

ここまで、どっかで手伝わせてもらえないかなぁ、と指をくわえて見ていた俺は、引き上げならできるかも、と意気込んだ。しかしそんなやる気満々の日本人を横目に、おじさんはさっさと網を上げ始めてしまった。どうやら、出番はなさそうだ。大事な商売の邪魔をするわけにはいかない。生活がかかっているのだ。だまって見ていることにした。

網は、おじさんが一引きする度に、水面から新たに生まれ出てくるようにも見えるし、海底まで延々と続いているかのようにも見えた。

永遠に続くとも思われた網引きは、20分ほどで終わりを告げた。そして、その漁獲量に俺は驚いた。総量なんと

バケツに5cm。

!!??
え?

全然取れてないじゃん。

50mの網を張って、取れた魚は両手で数えられる程度。しかもどれも長さ5cmから10cmぐらいで、たまの20cmがいいところ。バケツの底が見えそうである。

「No fish!」

苦笑いのおじさんの声が響く。
今回の漁で網を投げたのは2回。結局漁獲量は

バケツ4分の1。

しゃれになっていない。最近ずっとこんな感じで、これではボートのガソリン代も賄えないそうだ。